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インセインシナリオのレシピ(初心者PL向け協力型編)

 この記事はTRPGシナリオ、それもインセインのシナリオを作るための備忘録です。

 TRPGの中でもインセインは、慣れてしまえばかなり楽で破綻も少なくGMができる非常に良いシステムですが、シナリオ制作をしようとすると結構癖があるとも思っています。しかし、これも慣れてしまえば結構楽です。(もう私はインセインシナリオしか作れない回せない身体になってしまった…)

 今回は、初心者PL用にとてもシンプルに作った『肉霊製造工場』という協力型のシナリオを例に説明します。

準備するもの

  • インセインルールブック、サプリ

     シナリオを作るなら、やっぱり必要です。

  • 何らかのテキストエディタ

     私はNanaTerryを使っていますが、別に何でもいいです。HOの管理に便利で、階層構造を作れて、そのアウトラインが見やすいものをおすすめします。最終的に印刷したり、公開したりすることを考えると、MarkdownとかGoogleドキュメントに直書きとかでもいいかも。

『肉霊製造工場』の概要

 シナリオ本文はここから読めます(だいぶ昔に公開したシナリオで、pixiv小説媒体しかなくて読みにくくてすみません)。

www.pixiv.net

(当時の)必要要件

 このシナリオは、大学のTRPGサークルの新歓用のシナリオとして作りました。そのため、まず、かなりきつい縛り、必要要件がありました。

  • PLのうち、2人は全くTRPGをしたことがない新入生を想定、もう2人はサポートしてくれる経験者PLが入ってくれる(はず)。
  • 「短時間枠」を担当。セッションは本編2~3時間(この時は対面セッション)で終わり、終電に間に合わせなければならない。

 逆に言うとこれ以外は割とやりたい放題です。

(ここから先、激しくネタバレ)

1. コンセプト・テーマを固める

 初心者布教用のシナリオなので、

  • 初心者が相談できるPLが少なくなってしまう「対立型」や、普通に立ち回りが難しい「特殊型」はやめておこう
  • 「マルチジャンルホラーRPG インセイン」のエッセンスを、短い中に詰め込んで、楽しんで帰ってもらおう
  • 初心者はそもそもTRPGのルールを飲み込むのにいっぱいいっぱいなので、物語はわかりやすい、あるあるネタにしよう

 とか色々と考えていました。

 何があるあるネタなのかは、個人のボキャブラリーによると思うのですが、当時CoCが流行っていたり自分でもそういうシナリオを多く作っていたりしたので、探偵とか記者とかが怪奇的・冒涜的な事件を追う感じのやつにしよう!と決めました。

 ただし、そういう捜査シナリオをセオリー通りにシティ調査させていたのでは、めっちゃ時間が掛かりますし、個人的には地味すぎてマジの初心者には魅力が伝わりにくいかなと考えました。

 なので、思い切って、もうPC達は協力してそういう地味な調査は全部終わらせており、敵の本拠地が分かった!カチコミじゃ!!!というクライマックス直前の段階から導入が始まるということにしました。こういう雑・大味な展開でもスムーズに進行できるのがインセインの良いところですね。インセイン最高。

2. やりたいこと(シーン)を決める

 ここから先は順番が前後したり、前の段階に戻ったりしながら進めていきます。

 とりあえず、なんとな~くどんなシナリオ(構造)にしたいか、どんなことが起こったら面白いかを考えます。

  • PC1/PC3とPC2/PC4はそれぞれペアになって、ラージナンバーがスモールナンバーをPL的には初心者サポートしてもらいつつ、PC的にも友情をはぐくんでもらいつつ……でもやっぱりインセインなので、心理的に裏切られるようなHOにしてびっくりしてもらおう
  • 動いたりしゃべる肉塊が好きなので、出そう
  • 斜歯忍軍みたいなヤバ研究者が好きなので、出そう
  • 最後(クライマックス)にはやっぱそいつらとバトルだよね
  • それだけだとあるあるネタすぎて面白くないから、どんでん返しが欲しいな…これもあるあるネタではあるが…やっぱ、放火やな!
  • PC1の子供の一部がPC2の体内に移植されてたら、いい感じに嫌な気持ちになっておもしろいんじゃね?*1

 見えてきましたね!

3. PCHO(使命)を決める

 インセイン(シノビガミ)で何よりも大事で、一番慎重に考える必要があるのが【使命】です。PCの【使命】がシナリオの構造を決定すると言っても過言ではありません

 今回は「協力型」にすると決めたので、全員の【使命】の同時達成が可能なようにします。わかりやすいように、本当の【使命】も込みでここに並べてみます。

  • PC1: 犯人に復讐すること
  • PC2: 犯人を逮捕すること
  • PC3: 特ダネを書くこと
  • PC4: いい感じに放火すること

 ちゃんと同時達成可能になっていることを確認しましょう。

 え?PC4がなんかおかしい? 別に現場が燃えたところで犯人への復讐も犯人の逮捕も記事を書くことも阻害されないのでいいんです

 まあ、本番ではPC2(新入生)が正義感の強い刑事だったので、PC4を逮捕しようとクライマックスフェイズ戦闘第二ラウンドが行われていましたが、こういうサブミッションの為に頑張ったりするのもTRPGの醍醐味だよね、ウンウンと頷いて見ていました。あれは大型新人だった…。

4. シーン数を確認し、HOを書く

 ここから先は特にインセインに特有の工程となってきます。

 シーン数をまず計算します。今回は、サイクル数と人数が予め決まっているので、2サイクル×4人=8シーンが(【嘆願】アビリティが無ければ)上限です。基本的には、この数を越えないようにHOを作っていきます*2

 PCの【秘密】を誰かが知ることが重要なシナリオの場合(「対立型」とか)はPCHOも含めて数えますが、今回は「協力型」と明言してあるので、PCHOは積極的に調べない前提でPLもやってくれるはずです。特に今回は、PC4が【秘密】を調べられないことが【使命】みたいなものなので、彼(彼女)の為にもHOは少なすぎない方がいいでしょう。

 結果、PC以外のHOは合計6枚となりました。「調査判定」に全部成功すれば2手番余りますが、その場合も「感情判定」、「回復判定」、他PCHOに対する「調査判定」等やることがあり無駄にはなりません。いやあ、インセインは素晴らしいシステムですね。

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 書いたHOは、こんな感じで階層構造で表示しておくと、出す順番がわかりやすいです。★がついている2つは1サイクル終了後のマスターシーンで公開されるHOで、「管理人室」は「機械室」が調査された時に公開される”子”HOとなっています。

 様々なものをHOにすることができますが、今回は廃工場の色んな場所を調べていくという感じのシナリオなので、基本的に「場所」をHOにしています。*3

 ゲーム的な内容としては、「機械室」→「管理人室」と調べて犯人の【居所】を手に入れられれば全員の使命達成が可能になります。それ以外は、ホラー演出が主で、実は手に入れなくても支障ありません*4

 シノビガミでやるとちょっとアレな感はありますが、インセインではこんな感じで、「恐怖判定」をさせたり、「ショック」を受けさせたりするための”罠”HOを多少は入れておいても許されるような空気があります。そうやってPCもPLもじわじわと怖くなっていくのが面白かったりするんですよね(持論ですが)。

 「恐怖判定」の数については少し気を付けないといけないので次の項目で書きますが、「ショック」については全部のHOにショック:全員とか書く勢いで入れまくっても割と大丈夫です。みんな錯乱しろ!!!*5

5. 狂気カード枚数と種類を決める

 インセインに特有のシステムとして、「狂気カード」があります。狂気カードの枚数は、ルルブ的にはPC人数×4枚が目安らしいですが、一概には言えません。シナリオ中の「恐怖判定」が多ければ、それでも足りなくなるからです。

 「恐怖判定」は一般的な判定と違い、PCが持っていない特技からの代用判定になることがほとんどで、体感では成功/失敗は五分五分くらいな印象があります。運にもよりますし、そのシーンに何人登場しているか(何人恐怖判定に参加するか)にもよります。

 結構肌感によるところが多いので、結論としてはやっぱりルルブの推奨に従って、とりあえずPC人数×4枚でテストプレイを回してみてから考えるでいいのではないでしょうか(このシナリオもそれに準拠しています)。

 また、狂気カードの種類にも気を付けてください。中には、狂気カードが顕在化したときの効果に「自分以外のPCに恐怖判定をさせる」ものがあります。私はこれらを入れるのが大好きなので、いつも狂気カードの山札枚数が火の車になっています楽しいね。

6. エネミーデータを決める

 ルルブに乗ってるやつ適当に引っ張ってくるでいいです。

 特にサプリのアビリティを使ったりしているとPCは思ったより火力が出るので*6、少々強くても倒されてくれます。

 ただ、「明らかに倒せない敵」を用意するのも良いでしょう。人の手が及ばない相手というのは最高に怖いものですから。その場合は、殴り倒す以外の突破口である「儀式シート」を用意しておきましょう(このシナリオではやらないので割愛します)。

 デッドループ(サプリ)を持っているなら、「猛攻」や「ダムド」のルールを使うのもいいかもしれません。私はこれらのルールをまだ使ったことがありませんが、ブラックデイズ(公式シナリオ集兼サプリ)収録のシナリオには結構採用されている印象があるので、参考にしましょう。

7. (必要に応じて)マスターシーンを考える

 確定で必要なマスターシーンとして「導入シーン」と「クライマックスフェイズ」がありますが、GMは好きな時に追加のマスターシーンを挟むことができます。マスターシーンでは主に、

  • 登場人物やHOの追加
  • 恐怖判定の発生
  • ヒント/ゾーキングを与える

 とかをします。

 特に、HOを導入シーン直後に全部出してしまうとウワー!!!多っ!!!!とPLがびっくりしてしまいますので、階層構造方式(調べると、追加される)を使う以外にも、サイクルが進むごとにマスターシーンを使って受動的に増やしていくのも良いと思います。後から出てきたHOの方がたぶん重要だろう…というメタ的なメッセージにもなりやすいです。

 このシナリオでは、1サイクル目終了後のマスターシーンで、「悲鳴・新鮮な死体・這いずる子供の手」のヤバ・コンボの恐怖判定で一しきり盛り上げた後、子供の手に握られていた鍵で新たなHOが公開される…という流れにしています。

何かができたぜ。回してみるか。

 こんな感じで修正を繰り返し、PLの行動や感情の動きもなんとなく想像しながら作っていきます。他人が作ったシナリオも大いに参考になります。特に公式シナリオを読んでいると、え!こんなこともやっちゃっていいんだ!公式なのに!とか刺激があり、おすすめです。気軽にオリジナルシナリオを作ってみて、みんなで遊んでみましょう。楽しいよ!

特殊型になるとまた考えることがめちゃ増えるので、また機会があれば描こうかなと思います。

それでは。よきインセインライフを。

*1:注:私はCoCのGM(KP)出身のためか、特にホラー展開に関しては大変性格が悪いです。こういう展開は用法用量を守って楽しく遊びましょう

*2:公式シナリオの中には、この数を越えるHO枚数のものもあったりしますが、そういうのは上級者向けと言っていいでしょう。今回は初心者向け想定なので抑えめに作ります

*3:余談ですが、公式リプレイを見たら、HOってキャラクターなので「場所」にも【感情】持てるらしいですね。よくわからんけど。

*4:皆には内緒だよ。

*5:クライマックス戦闘の難易度は上がります

*6:回想でも1d6点増える、バカ